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黒衣の代理人

The agent of Black



 ロアドの言葉に偽りはなかった。初撃から、渾身の力で彼は挑んできた。ローラ・ディーテンの重い刃が、唸りをあげて打ち下ろされてくる。
 それが普通の鉄であれば、エクレイドには受けきれる自信があった。しかし神聖なる騎士剣、偉大な理力を備えたもの同士の闘いだ。ローラ・カラトスの平均的な片手長剣の造りと、彼女の腕力では、ガイユ騎士の斬撃を正面から支えるのは少々不利であった。
 軽快な足取りで攻撃をかわすエクレイドに、ロアドは息つく間もなく迫ってゆく。
 人の背丈ほどある大きな剣身を振るって、一分の隙も見せないのだ。彼は戦烈神の騎士剣を、完全に御していた。
 ロアドが大剣を水平に払った瞬間、エクレイドは初めて攻撃に転じた。男の足を狙って、鞭のようにローラ・カラトスが閃く。
 激しい火花が散った。
 はじき返された腕をすぐさま戻し、エクレイドは続けざまに斬りつけていった。今度は、彼女が追う番だ。
 心が、本能が、頭を飛び越して直接剣に働きかけているようだった。もてる最高の速さで、黒衣の騎士に攻め込んでいく。
 相手は、エクレイドとは対照的に、攻撃のすべてを受けとめにかかってきた。
 剣が、荒ぶる獣のあぎとのごとく、噛み合う。
「――!!」
 その、衝撃の異常な重さに、内心エクレイドは驚いた。まるで刃と刃の間に、何かしらの反発力が生じたように感じたのである。
 騎士剣が、使い手の戦意に感応し、持てる力を発揮し始めているのだ。ロアドも、一瞬眉を上げたが、すぐにあの不敵な笑いになって、女騎士の連撃を防いだ武器を持ちあげた。
 ほとばしる力と力が、再び、引き合うようにぶつかりあう!
 ――重い。
 だが、腕の痺れを心地よく思う自分に、エクレイドは気付いた。脈打つ騎士剣の力を、直に感じている。
 負けない闘いをすることも、戦士としての器量のうちだ。だが、今はそういう戦術云々よりも、己を突き動かす力に身を任せるときだった。
 後退する足を止め、唇の端をわずかに曲げて、エクレイドは大地に根を張った。
 真っ向から、向かい合うべきなのだ。そう、たとえ不利でも。
 それが、全力ということではないか?
「……面白い!」
 心底から放たれた、喜色に満ちた好敵手の声に、剣の軌跡が重なった。
 そこからは、激しい打ち合いになった。
 上下左右、あらゆる位置から、もてる技術のすべてを使って、互いに刃を叩きつける。
 鼓膜を震わせる、音。
 見物の貴族たちは、無責任に喋りあいながら勝負の行方を見守っていたが、次第に、口を閉ざして二人の闘いを目で追うのみになっていった。
 その闘いには、優雅さも華麗さもなかった。
 ただ、均衡した力を持つ二人の戦士が、雌雄を決しようとする凌ぎあいが、繰り広げられているだけだ。
 異様な空気が、神殿騎士たちを包み始めていた。
 何度目かの間合いの取り直しで、二人はしばらく動きを止めた。足どりも、剣勢もしっかりしていたが、それぞれの額には汗が浮かんでいる。呼吸にも、かすかな乱れがあった。
 ロアドの並外れた膂力と、ローラ・ディーテンの重量をはねかえすことで、エクレイドはかなりの体力を消耗していた。腕には鈍い痛みがあり、もう、そう長い間、この闘いを続けてはいられない。
 一方ロアドも、エクレイドの素早さに応じて剣を振り回していたのだ、同じように疲労しているに違いなかった。彼の場合は腕よりもむしろ、脚にきていただろう。
 二人の間に、緊迫した静謐が流れた。息を整え、それぞれ剣を構え直す。
 相手の動きを見、エクレイドはガイユの騎士が自分と同じ心づもりであることを悟った。二人は、それぞれの神殿に伝えられる、正式な型に乗っ取った構えをとったのだ。
 エクレイドは片手長剣のための、ロアドは両手剣のための。ともに、己の最大の力と技でもって、決着をつける覚悟であった。
 一瞬の凪の後、仕掛けてきたのはロアドのほうだった。
 エクレイドに相手のそれがわかったように、彼も、彼女がとった型が、防御から始まる反撃の型であるのを知っていたのだろう。攻めの常道が圧倒的に多いガイユの型で、猛然と突進してきた。
 エクレイドは、初段の切り払いを、斜めに差しだした剣身で受け流した。すかさず、手首を返して相手の腋下に、切っ先を滑らせる。そのときには、ロアドの騎士剣が、同じような動きで彼女の胴体に返ろうとしていた。
 神に捧げられた剣が、中空でぶつかった。
 振り払うようにして、二人は再び体勢を立て直す。
「おう!!」
 人の肝を鷲掴みにするような気合いを発して、また、ロアドから斬りかかってきた。エクレイドは、とっさの判断で、腕を上げなかった。ぎりぎりの一線でそれをかわす。
 爪先で、小石が飛び散った。
 剣圧で、地面がえぐれたのだ。
「……!」
 ローラ・ディーテンの鋼色の剣身が、薄赤い光、もしくはもやのようなものを放ちはじめていた。
 剣撃を避けながら、身体のそばをそれが通り抜けていくたび、エクレイドはただならぬ圧迫感を覚えた。〈我が敵を屠り給え〉、ガイユ神殿騎士剣が、拝領者の苛烈に燃え上がる精神にあおられ、本来の力のすべて、戦烈神の炎の力を解放しはじめているのだ。
 引きずられる……!
 エクレイドは、平静を保とうと努力した。ローラ・カラトスに封じられているのは、天空を閃く雷の力だ。ここにあるのは、騎士剣のなかでも、最も攻撃的な属性をもった二振りなのだ。
 もともと、人ならざる存在に対抗するために、造られた剣である。彼に引きずられて、互いにそれを解放してしまっては、ただごとではすまなくなる。何より、目に見えない力について暗いエクレイドには、戒めをなくした神聖力を、完全に制御することができないのだった。
 解き放たれた騎士剣は、圧倒的な破壊力を誇る。
 一撃だ。
 逸る心を抑えつけながら、エクレイドは考えを巡らせた。
 このまま刃を交え続けて、騎士剣同士を共振させるわけにはいかない。ローラ・ディーテンが燃えあがる前に、できればただの一撃で、この闘いを終わらせるのだ。
「父なるガイユの槍にかけて!!」
 ロアドが吼えた。
 叫びに応じるように、大剣の剣身が赤く染まった。

 来る!!
 凄まじい勢いで、黒衣の騎士はローラ・ディーテンを振るった。鉄の鎖も糸のように断ち切ってしまうだろうその横薙ぎは、左から、ライファラスの女騎士の胴体を狙って繰りだされた。
 飛び退こうとする反射を、エクレイドは殺した。彼女は身体をねじ曲げるようにして、大剣の切っ先ぎりぎりの位置で反転した。
 見物人たちの間に、悲鳴と混乱が広がった。ガイユ神の騎士剣の先からは熱風がほとばしり、優雅な貴族たちの観覧席を直撃したのだ。日除けの天幕や帽子があおられ、激しくはためく。
 エクレイドの身体の上でも、それは同じだった。火傷するような熱の塊が、左脇腹をえぐった。騎士服が裂けたのがわかる。
 剣尖はごくわずか、彼女の身体をかすめたに過ぎない。だが、灼けた鉄に触れたようなひりつく痛みが、一瞬彼女の知覚を揺さぶった。
 エクレイドは踏み出した。否、飛び込んだ、といったほうが近い。長大な両手剣を振り抜いたロアドとは、その剣身の長さと等しい距離しか離れていない。
 完全に無防備になった黒衣の男の右側面を、エクレイドはとらえた。刃を返したローラ・カラトスの剣の平が、ロアドの手首に向かって打ち下ろされる。  流星の光芒のような、金属のきらめきが人々の目に、残影となって映るばかり。そういう速度で放たれた一撃は、重い音をたてて男の腕を、その剣を、地面へと叩き落とした!
 ガイユの騎士は、これほど近づいていなければ聞き取れなかっただろう、低い呻きをもらした。
 エクレイドの剣は、太陽光をはじく鋭い直線となって、彼の喉元に突きつけられていた。
「そこまで! 勝負はあった!!」
 老アドレン卿が立ち上がり、闘いの終わりを宣言した。
「勝者はモンソール家のアミーナ殿の〈名誉の代弁者〉、すなわちすべての名誉と権利はアミーナ殿のものだ」
 わっ、と歓声がわいた。
 決闘場を取り囲む観覧者たち、そのすべてが一斉に、目にした結果に興奮の声をあげているのだ。
「……無茶をしやがって」
 ローラ・カラトスを鞘に納めたエクレイドに、右手を押さえたロアドが言った。
「後もう半歩でも避け損なってたら、あんたの内臓は炭になっていた。貸与剣の剣圧はよく知ってるはずだろう?」
「まあね」
 赤く焼けかけた肌を露出した脇腹に手をやり、エクレイドは肩をすくめた。空気に触れると、疼くような痛みがある。
「だけど、あれ以上さがったら間合いを離しすぎて、懐には飛び込めなくなっていただろうから」
 ロアドはエクレイドを凝視した。
 数瞬の間そうして、彼は……はじけるような笑声をあげた。
「気に入った!! いい度胸だ。我らガイユの子の、兄弟にこそふさわしい。……『我が兄弟ローレイン』、エクレイド」
 黒衣の騎士は、おそらく、彼らしいといえるのだろう豪放さで、エクレイドの背中を叩いた。
 騎士剣をそれぞれ落ち着けると、二人は審判台へと向かった。
 代理人たちが近づいてくるのを見て、真っ先に動いたのはアミーナだった。小柄で可憐なこの貴婦人は、面を悲愴なまでに歪めて、己の最初の騎士に飛びついた。
「タート・エクレイド!! ああ、何てことなの。お怪我は、お怪我は大丈夫なのですか……!?」
 すがりつくようにして傷をさぐる少女に、エクレイドは苦笑した。肩を抱くようにして、なだめにかかる。
「どうってことはありませんよ、アミーナ。とにかく落ち着いて」
「……タート・ロアド。まさか、あなたが負けるなんて」
 女騎士が貴婦人をあやしている傍ら、そのようすから視線をそらしたコーウェルが、己の代理人に呼びかけた。
 ロアドはローラ・ディーテンの柄を持ちあげ、勝利者を指す。
「拝領者同士の闘いだ。何が起こってもおかしくない。……タート・エクレイドの実力は、今見たとおりだ」
 コーウェルは険しい目を、再び、赤衣の騎士と取りすがるアミーナの姿とに向けた。そしてやがて、諦めたように首を振ると、彼は苦々しい表情で二人に歩み寄った。
「……タート・エクレイド」
 アミーナが、はっと振り返る。鳶色の瞳が見守るなか、コーウェルは噛みしめるようにして言った。
「あなたへの非礼を詫びる。あれは、ゆえのない侮辱だった。あのときの言葉のすべてを、私は撤回する」
「コーウェル……」
 アミーナが、心の緊張の解けた顔で、少年貴族を見上げた。表情に、晴れやかなものが広がる。
「それから、アミーナ、きみにも。きみの大事な付添人を……騎士を、侮辱して、すまなかった。……許してほしい」
「いいえ、……いいえ、コーウェル! あなたがわかってくれたのなら、それでいいの。私は……」
 コーウェルは、努力して浮かべたことがわかる微笑みを返した。
「……許してくれるかい?」
 アミーナは、うなずいた。
「……ええ、あなたを許すわ、コーウェル」
「……そうか」
 コーウェルは呟いて、背中を向けた。
 エクレイドを巻き込んだ一連の騒動は、ようやく丸く収まろうとしていた。
 だが、黙って立ち去ろうとしているコーウェルの前に、黒衣の男が立ちはだかった。
「……タート・ロアド」
「コーウェル、まだ精算は終わっていない」
 ロアドはそう言うと、目線でエクレイドを示した。
「タート・エクレイドの傷の責任を、おまえは負うべきだ」
「ロアド……」
 自分を『兄弟』と呼んだ男に、エクレイドは反駁しようとした。が、ロアドは意味ありげな目配せをして、コーウェルに視線を戻した。黙っていろ、ということらしい。わずか、迷ったが、結局彼女は口をつぐんだ。静観を決め込む。
「傷の責任?」
「そうだ」
 いかにも重々しげに、ロアドは答えた。
「治療次第によっては一生痕が残る傷を負わせたんだ。直接そうしたのは俺だが、俺はおまえの代理人として闘ったんだからな」
 コーウェルは、当惑したように、派手に露出したエクレイドの腹部を見遣った。
 あまり長くそうして思案しているので、ついに、アミーナが両手を広げて、二人の間に割り込んだ。心なしか、頬に朱がのぼっている。
「失礼よ、コーウェル。女性の肌を、そんなにしげしげと見つめるなんて」
「あ、ああ、失礼……」
 コーウェルは、謝りかけて、はた、と動きを止めた。ぽかんと口を開けて、女騎士を見上げる。
 次の瞬間、少年貴族の顔は、染料でも使ったように真っ赤になった。彼は意味をなさない言葉をうわごとのように呟きながら、面を伏せた。
「申し訳ありません、タート・エクレイド」
 やたらな早口で、彼は辛うじてそう言った。
「……コーウェル?」
 怪訝そうにのぞき込むアミーナの視線を避けるようにうつむき、彼はもう一度、謝罪の言葉を口にする。
「本当に、申し訳ない。とんだ勘違いでした。……失礼、アミーナ」
 そう言い終わると、コーウェルは、くるりと踵を返した。逃げるように歩き去っていく。
 茫然と立ちつくす二人の女性に向かって、ロアドは太い笑みを浮かべた。それは、最初からすべてを知っていたものが、あるべき姿におさまった事象を確認したときに浮かべる、満足そうな笑いであった。






「コーウェルはな、惚れてるのさ。マンサス伯のあの令嬢に」
 ケルクへ続く街道を臨む丘の上で、ロアドが言った。
 数日の間マンサス一帯を騒がせた決闘は無事に幕を閉じ、試合場からその足で大神殿へと戻るロアドを見送りに、エクレイドは一人、彼とともに馬を走らせていた。
 戦烈神ガイユの騎士には、〈挑戦のための放浪〉が許されている。誰か闘いたい相手なり、目的なりがあれば、その望みを果たすため、神殿を離れ、旅に出ることができるのだ。
 ロアドも、そんな旅の途中だった。ケルク大神殿からの召還を受け、放浪を切り上げてついた帰路、一夜の宿を求めて立ち寄ったベルイム邸で、彼は決闘代理人の依頼を受けたのだった。
「あんたに会う前から、おおよその見当はついていた。若い男の、それも女がらみのもめ事の原因なんて、そのくらいだからな。どこから見ても立派な貴公子としか思えないあんたに、嫉妬したのさ」
「……なるほど」
 ようやく合点のいったエクレイドは、憮然とした溜息をついた。そうだとすれば、初対面の時からのコーウェルの態度にも説明がつく。己の容姿について充分な自覚がありながら、……いや、あるがゆえにいちいち釈明などをしない彼女の習慣が招いた、誤解だったというわけだ。
「まあ、コーウェルにはいい教訓になったろう。安易に人を外見で判断するとどうなるか、っていうな。……傷の具合はどうだ?」
 エクレイドは脇腹に手を当てた。火傷に特有の、あのひりつくような痛みは、すでにない。
「あなたの術が効いたみたいだ。多分、ウェブロスでもう一度治療を受ける頃には、痕も残ってないだろう」
「そいつはよかった」
 ロアドは歯を見せて笑う。
「あんたを傷物にした責任をとれといわれても、俺は困るからな」
 つられて笑いながら、エクレイドは、ひとつだけ疑問に思っていたことを口にした。
「しかしロアド、あなたはいつ気づいたんだ? ……つまり、わたしの性別についてだけれど。それとも、最初から知っていたのかな」
「あんたの名前は、ずっと前から知っていた。あんたが拝領者だってことも。ガイユ神殿には、そういう情報は逐一流れてくるからな。性別までは、気にしたことはなかったが。でも、あんたが女だってことは、一目見ればすぐにわかったぜ」
「へえ!」
 エクレイドは感嘆の声をあげた。
「そんなことを言われたのは初めてだ。すごいな、どうしてわかったんだい?」
 こともなげに、ロアドは断言した。
「鍛えられてはいるが、あんたの身体の造りと動きは、微妙に男のものとは違う。当然といえば当然だが……まあ、自分の目を疑いはしたな」
 黒衣の騎士はそこまで話すと、天を仰いで葦毛の馬の手綱を絞った。
「さて、そろそろ出発するか。でないと日が暮れるまでに旅籠に着けんからな。説教をくらいに戻ると思うと、ケルクの門を潜る気も萎えるもんだが」
「お互いさまだな。あんな大勢の人の前で騎士剣を振るってしまったんだ。へたをしたら至神殿プラセルに呼び出をくらいかねない」
 平気な顔で悲観的な発言をする女騎士に、ロアドは大げさに身震いした。
「勘弁被りたいぜ。そのときは、相手がガイユ騎士だったことを強調しておくんだな。勢いと成りゆきでことを派手にするのは俺たちの癖のようなもんだ。真面目に反省するより、かえって呆れて諦めてくれるかもしれんぞ」
 そんな会話を交わしながら、二人の表情に切迫したものはない。ロアドは自分でそれを望み、エクレイドは自分の意思でそれを受けたのだ。納得の上の結果であった。
 黒衣の男は、エクレイドのほうへ向き直ると、居住まいを正した。改まった口調で呼びかける。
「タート・エクレイド、機会があったらまた会おう。あんたほどの騎士になら、ケルクの大門はいつでも開かれるだろう。近くに来ることがあったら、ぜひ寄ってくれ。俺は、もう一度あんたと闘いたい。……今度は、違う武器でな」
「わたしもだ、タート・ロアド。あんなに真剣に闘ったのは久しぶりだ。……そうだな、楽しかった。また会いたいな」
 二人は馬上で握手を交わした。
 指がほどけると、ロアドは手をひるがえし、乗馬に鞭を入れた。葦毛が、勢いよく走りだす。
 そのときふと、考えたことがあって、エクレイドは黒衣の背中に大きな声を投げかけた。
「ちょっと待ってくれ! もしもあなたがわたしの性別をコーウェルに教えていたら、あんな大事にはならなかったんじゃないか?」
 果たして、大男は振り返った。
 馬上で器用に背をひねって、彼女に負けない大声で叫びかえす。
「言っただろう? 好機をみすみす見逃すような真似はしない、と! それが俺たちガイユの騎士の、第一の信条なのさ」
 ロアドの唇に掃かれていたのは、ふてぶてしい、いたずら小僧の微笑であった。
 駆け去る騎影を見送るエクレイドの口許に、ふと、同じような笑みがわいた。爽快な気持ちで、女騎士は、誰もいない野辺に高く笑い声を響かせた。
 この日、彼女は黒衣の騎士の在りようを知り、そして一人の友人を得たのだった。
 ウェブロスに、コーウェルとアミーナの婚約の報が届くのは、それから二ヶ月を経た後のことである。

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